困難な時代を生きるために

 青天の霹靂ともいえるコロナの蔓延、後世に語り継がれるであろう世界恐慌以来の令和大恐慌、グローバリズムを軸とした時代は混迷し、世界的規模で大量の失業者が生み出される、そんな時代に突入した感じがしています。2020年という時期は、後の時代からみれば大きな時代の変わり目、パラダイムの転換点ではないか。私はこれまで主に、近現代における社会の構造、地域生活における様々な有機的事象、そこから生じる人々への影響、地域社会における課題を、歴史学による手法と視角で検証してきましたが、コロナを契機として、人と人との関わりは様変わりしていくといえるのかもしれない。こうした時代のルールの変化は、地域社会や福祉制度、公への基礎とするをする教育など総てにリンクしているものです。

 これまで日本型の就労・雇用・産業構造はどのようなものであったのでしょうか。戦後社会を就労を中心に概観すると、大きく4つに区分できます。第一区分の時代、この時期の戦後繁栄は、1951年の講和会議を契機に、国際社会へ復帰、失われたものを再構築する過程でもたらされました。戦後復興期のインフラの整備、各種、第一次産業における専業形態、各種産業の保護制度、朝鮮戦争での需要等、様々な需要があるなかで構築され、次ぐ60年代からの高度経済成長は、科学技術革新、生活インフラの普及、物質的豊かさが充実していく時代が訪れ、モータリゼーションの到来と製造業の拡大、高速道、鉄道網などの輸送インフラの整備、またベットタウンの建設、スーパーが生活インフラとして整備されました。首都圏の拡大を呑み込み産業構造は需要ともに人手不足を生み、一般就労は増大しました。就労形態でみると第一次産業の象徴である専業農家の割合は、兼業農家の増加とともに縮小、産業構造の変化が起こり75年以降の安定成長期には、一億層中流というような社会構造となりました。

 その社会構造に大きなパラダイムシフトが起きたのは、第二区分の時代の就労・産業構造によって起こりました。この変化は1985年のプラザ合意後の社会で、70年代から80年代半ばにかけての安定、半導体などでリードし、ジャパンアズNO1と評された80年代半ば以降に、一ドル=360円から120円の時代が訪れ、これにより輸出を軸とした日本の製造業は、低賃金の労働力を求めた結果、、中国などの海外に向上を移転、製造業は空洞化し、就労・産業構造は、製造業からサービス業へ、こうした中、冷戦の終焉と東欧革命が起こり、日本の経済政策では為替変動の影響によって資金の大量流入が起こりました。

 90年初頭、バブル崩壊が起こり、第三区分の時代が到来となりました。企業の就労形態は、社員は家族であるといった一億層中流を保障した雇用形態である「日本的経営の象徴」松下モデルは崩壊、新たな就労の形態として95年経団連は、「新時代の日本的経営」として雇用の調整弁の役割が必要となり、非正規雇用の増大の基礎的条件が示されました。企業の都合による雇用の調整弁は、社会で切り捨てられていく就労構造に転換した子とを意味し、98年、金融危機、大企業の倒産も相まって、団塊ジュニア世代を中心にロストジェネレーション世代を生み出されました。そして3万4000人にも登る自殺者を出す社会となりました。「勝ち組・負け組」に象徴される時代、IT革命の華やかさの一方、ニューヨークでテロが起こり、格差とライフスタイルの多様化は進みました。リーマン不況が起こった08年12月、就労・労働分野でみれば、派遣社員が派遣切りにあった日比谷派遣村のように、基本的人権に係るような事件(未熟な就労・雇用システムないし企業社会の露呈)も起きました。

 それから10年、この社会はコロナによって大きく変化を強いられることとなりました。グローバルな分業制を基盤とするサプライチェーンは地球的規模で機能していましたが、チェーンの否定を強制するコロナによって、移動を前提とした就労によって支えられてきたシステムに疑問が生じ、人と人との隔離を促すウィルスによって、サービス業を中心とする就労の崩壊は避けられない事態となりました。国によって示された「新しい時代の生活スタイル」によって観光・飲食など人を介するサービス業は減少していくことになるのでしょう。

 

 歴史的区分をして30~35年区切りでみれば、55年体制の1955年から1990年あたりまでの上昇期、冷戦崩壊前夜の1990年から2020年までの停滞期、2020年以降の下降期と区分できます。こうした時代の就労とは、あるいは生活とはどのようなものかということを、一人一人が創造していくことが求められる時代が到来したということでしょう。そして就労支援の一翼を担う我々もまた、新たな時代の就労支援を求められるといえるのでしょうか。


 1998年他界したXのギタリストhideさん(元は美容師さん)は次のように歌っています。

 「何にもないってこと、そりゃ、なんでもありってこと」(Rocket dive)


 誰もが何らかの不安を抱えながら生きざるをえないそんな時代。でも焦る必要はないと思います。不確定な時代を自分らしく健やかに生きるために、それだけでいい。混沌とした困難な時代をともに歩んで生きましょう。



2020年05月10日