これからの就労を考える定例会からの報告
先日、ある福祉就労系法人の理事と、FR教育関連の関係者の2人と私で定例会を行った。題目は、「コロナ時代の経済と経営」、そしてそのベクトル上にあるこれからの就労のあり方について、「変化の兆しをしっかりと掴む眼」というテーマで意見交換をした。そのなかの議論から興味深いテーマをいくつか抜粋します。
時代の価値観の変化にどう対峙するか。これはいつの時代も生きるために対峙しなくてはならない普遍的なテーマですが、今回は平成の歴史を振り返りながら自由で闊達な議論が展開されました。かつて漫画やゲームなどの娯楽というものは、「そんなものばかりみていないで、やっていないで勉強しなさい。」という勉強を妨げる対象であった。しかし、時代の価値観は変わり、そうした文化は今や世界から、アニメを生み出した日本として評価されている。あの頃、勉強もそっちのけでマンガやゲームに勤しんだ才能豊かなクリエーターの数々の系譜が、次の時代を作ったといえる。一方で、例えば工業、高度経済成長期に社会インフラの構築を担うべく存在であったが、いつしか日本の御家芸であったはずのものづくり産業は、プラザ合意以降、製造業の空洞化、海外へと拠点が移っていく。こうした中、かつて花形産業を裾野で支えた高校の工業科の技術は、時代の要請として低迷し、担い手不足と相まって斜陽化、学校では技工系高校の統廃合、更には単位制へと変遷した。工業技術の数々の系譜は、担い手を失ってしまったのだが、そうしたなかで失ったものを、再び復活させるにはどうしたらよいのだろうか。
そこで喚起されるべきは探究心の育成であるという意見が教育関係から出された。確かにそのビジョンの数々の系譜を知る担い手の育成が必要であろう。そして呼応する形で、それを動かす原動力として、リーダーシップが喚起される必要があるということを経営学の立場の関係者から出された。そうした意見を基に考えると、私は学生時代、理系は苦手の割に好きな方で惑星や宇宙分野に関心を持っていた。のち産業技術の歴史、工業、土木、自然、人文地理など具体的分野に関心を移して、院では関心分野を活かし系譜の担い手、伝達者としての教育学に転身した。院に進学する前、教職科目で高校工業の免許科目を取得したが、必修の職業指導の科目である「これからの企業管理とプロフェッショナル育成」という長い名前の講座で興味深いことを学んだ事を思い出した。
それはリーダーシップ論である。この講座では「人を巻き込むにはどうしたらいいか」ということを教官に問われた。当時、リーダーの資質は重要であるということはわかったが、所詮は学生であり、具体的なビジョンとしては描き出せなかった。これは理系も文系も教育学も関係ない普遍的な概念であるから、今、それに応えるならば人を巻き込むには最低限、それなりの魅力を兼ね備えた人物でなければならないということだろう。そして物事に対して的確な状況判断、更に迅速に捉えなければならない。まるで半沢直樹のようであるが、これを担保するためには、いささかソフトの精度を上げることはもちろんの事、前提条件として、やはりそれなりのビジョンを描けなければ、大義として結実することはないだろう。かつての工業科は時代の花形であったが、重要であるにもかかわらず、時代を経て軽視されるようになった。もっとも技術を活かしきるビジョンがなかっただけともいえる。
時代が唐突に価値観を変えることは、歴史を参照すれば自明なことではあるが、コロナのようにパラダイムシフトが唐突に起こると、就労の在り方も変化を余儀なくされるのである。時系列的に法や制度は後について来るものであるから、まずそれに先んじて問題点が浮上し、それを精緻化しなければならない時期がまもなく訪れるだろう。今はその過渡であり、胎動期である。
教育と歴史関係者の意見では、かつて企業でも社交的な人は、企業人の必要要件として、内向性よりもプラスの評価を得ていたが、コロナの時代においては、それも過去の遺産と化したという意見があった。価値観の逆転といったところか、企業の経営で言えば弱みが強みになるということである。漫画やゲームなどの話は冒頭で触れたが、価値観の逆転についてさらにみれば、30年前流行ったCMをご存知だろうか(ちなみに私は小学生でした。)リゲインの「24時間戦えますか」というCMがはやったが、こうした意識は、時代の変遷とともにブラック企業の象徴として、今や社会の共通敵として認識されるようになった。強みは大きな弱点になるということを時代が証明しているのである。かつて半導体といえば、日本や米国のシリコンバレーがその中心であったが、いつしか覇権は中国のファーウェイになり、そして最新の国際情勢における情報産業技術ICTの覇権が変わり、台湾系企業の独占による米国内へ移転が進む情勢となっている。米中摩擦が進展する中、国内産業界では、製造業の国内回帰が叫ばれている。
遠くない未来、一旦は斜陽化し軽視されていた工業技術への関心が高まる時代が訪れる予感がする。それはイノベーションの要請とともに来訪することになるが、こうした時代の要請にどのようにキャッチアップするか、企業や個人は、それぞれの強みと弱みを巧みに使い分けて、しなやかに生き抜くことが求められてくるのだろう。忘れてはならないのは、めまぐるしく変わる価値観の移相である。事業者としては、時代に資する就労のあり方、就労に対すスタンス及び、それに伴うメンタルのあり方について、たとえプロトタイプに過ぎないとしても、モデルを作り柔軟で普遍性を伴った形で、無意識的に質的支援に反映されていくことが問われることになるのだろう。旧態依然の制度が刷新される過程における因習や弊害は、砂上の楼閣である。遠くない未来、コロナ時代に対応する価値観の形成は、時代の要請として喫緊且つ普遍的課題として俎上に上げられ、私たち事業者にも突き付けられる現実的課題となろう。
今後も定例会の議題は、定期的にまとめていきたいと思います。