半沢直樹

 最近、半沢直樹をみている。社会の至る場面における縮図であるこのドラマは、脚本もさることながら、キャストが役者ぞろいゆえか、各シーンの強弱や濃淡に説得力が加わっている。さて、このドラマの感想から想起されるのが、人生とは煩悩との葛藤、悩みの連続であるということである。悩みという言葉から連想すると、葛藤、不安、焦り、孤独、孤立、悲観、否定的な言葉ばかりが思いつくが、そのカウンターパートをなしているのは、野心、野望、驕り、上位、差別、排除、その肯定の論理である。その辺りは最近の話題の中心、帝国航空をめぐる展開で巧みに表現されていくが、そこでは個人であれ法人であれ、半沢によって痛み分けを中心として、最大公約数的な利益が実現される。その代償として、何らかの選択をするしかない厳しい問題を抱えている。一方、煩悩の権化である権力や野望は、巧みな正当性を振りかざし、自己のためだけの論理によって、何らかの利益の拡大を企てられるが、当事者以外にはみえにくく、淘汰されていることさえ気づかれにくく遂行していくことを目的としている。そこを半沢がスパッと切り裂くのが痛快である。時は止まってくれないし、生きるとは選択の連続である。むろん考え抜いた選択が、いつも正しいとは限らない。物語では、頭取が失敗の責任を取った形だが、生きるために決断を下すことは避けられない。半沢で描かれる社会の様々な矛盾の共通項として、保身、出世、他人事、既得権益、利己主義、家庭不和、時を超えて絶え間なく社会に萌芽していく歪みである。半沢を取り巻く野心のある人びとは、その目的を巧みに蔽いかくし、時に立場を入れ替え、建前と本音をすり替え、最終的に、何らかの不利益が、不作為の作為のような自然の成り行きで押しつけられていく構造的特徴を持っている。そうすると、最終的にどこに不利益がたどり着き、半沢を取り巻く賢者の仮面を被った偽善者たちが何を得るのかが自ずと判明する。彼は、その本質を超越的能力で見抜きすっぱ抜いていく痛快さで、現実社会では、なかなか露呈しない社会矛盾を豪快に切り裂いてくれる。というわけで来週の展開も目が離せないのである。

2020年08月27日